4.状態方程式による物性予測

★実験しないでデータを得る方法:

A,B,Cから成る混合物を考えます。ある温度、圧力、組成の状態で、気体なのか、液体なのか、それとも気相と液相が共存する気液平衡になるのか、あるいは固体が析出するのか知ることはできるでしょうか?そのときの密度はわかりますか?相体積の割合はわかりますか?状態1から状態2に変化させるに要する熱量はどれほどでしょうか?実験をしないで予測することはできるでしょうか?
 あるプロセス選定で100種類の物質が候補に上がったとしましょう。それぞれに気体、液体などの相が存在します。2成分系混合物としては約5,000の組み合わせが存在します。3成分系ならば160,000の組み合わせが得られることになります。それぞれに状態があり、密度、相などの状態があります。いま、その3成分系を蒸留で分離したいと考えたとき、ほしい成分をできるだけ純粋に取り出すにはどのような条件がいいのでしょう。この答えを得るには、2つの方法がある。1つは、実験を行うこと。これは、もっとも信頼できる方法ですが、時間とお金がかかります。わずか、100種類の物質から選んだ3成分系でさえ全て実験で値を求めることなど不可能であることがお分かりかと思います。
  もう1つは、計算で求めること。計算で求めるなんてできると思いますか。もちろん少数のデータがあれば時に内挿して求めることもできるかもしれません。では、全くデータがないとき(実際にはこの方が多いのです)にはどうでしょう。Yes, できます。データがなくても物性値を計算する、これを予測(推算とも言う) prediction といいます。皆さんは、理想気体の状態方程式 Pv=nRTをご存知でしょう。PとTを与えると、どんな物質でも、理想気体ならばvは誰にでも求められます。気・液相に適用できるようにした状態方程式を皆さんは、ご存知のはずです。そう、van der Waals状態式です。
P= RT/(v-b) - a/v^2
これを発展させたPeng-Robinson 状態方程式
P- RT/(v-b) - a/{v(v+b) + b(v-b)}
は世界で最も広く使われている状態方程式です。西海らはBWR状態方程式を開発発展させました。これらの、気・液に適用できる(一般化)状態方程式を用いて、わずかな純物質の性質から混合物の性質を予測する手法を提案しました。しかし、これは、無極性物質からなる系にしか適用できません。極性物質を含む系についてはまだ、予測法は成功していません。あなたが成功させて見ませんか?

★BWR状態方程式による物性予測

これはフロン混合物HFC125-HFC134aの気液平衡図(等温線)です。どのように見るかわかりますか。塗りつぶしの無い印が液相組成で、塗りつぶしは気相組成を表しています。実線はBWR状態式による計算値です。破線も計算値ですが、他研究者のデータを用いました。実験値と計算値は良く合っていることがわかります。これで任意の条件での気液平衡が可能になります。また、高圧での破線は気液平衡がなくなる点臨界点を連ねた臨界軌跡です。データも示されています。臨界点も計算で求められますが、気液平衡と同じ計算条件では良い一致が見られないことも多く、これからの研究テーマのひとつです。

これは、H2-トルエン系の等温線です。温度が高くなると計算値は、実験データを良く表していないことがわかります。これを改良するにはどうしたらいいでしょうか。挑戦してみませんか。


☆BWR状態方程式をもっと知りたい人のために

文献略

★PR状態方程式による物性予測

超臨界CO2によるナフタレン抽出。実線が計算値。高圧になるとたくさん抽出されることが示されている。破線は理想気体で2成分間の引力は無い。比べると、これはCO2とナフタレンの間の引力によることがわかる。

☆PR状態方程式をもっと知りたい人のために

文献略